2011/09/10

少女不十分

確かに、本文の中の少女は不十分でした。
けれど、表紙の中の少女は十全でした。


少女不十分 (講談社ノベルス)少女不十分 (講談社ノベルス)
西尾 維新 碧 風羽

講談社 2011-09-07
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小説の中の登場人物(柿本)がエッセイ風に物語を書いている体でストーリーが進んでいるので、あの時はこうだったと思い返す箇所が節々にある。そのことで、少女の家庭環境や身体、性格の不自然さが、柿本が驚く(知る)ところがそこまで際立たない。
けれど後々、少女の両親が失踪ではなく、死体となって家にいるという最大の育児放棄の状態であると知った時、柿本が両親の存在を尋ねた時の「いなくなった」と「なくなった」という返答は、

「いなくなった」→「逝なくなった」
「なくなった」→「亡くなった」

とそれぞれ変換できることに驚いた。
柿本はその言葉を聞いて、少女を置き去りにしたと推測したが、両親は死んでいるとも取れる。家主がいない家で小学生が一人しか住んでいないのは異常である。このことを自覚していたかどうかは定かではないが、正体を見破られないように両親の教えを忠実に守っていた少女には、『正体を知られないこと。』の前に、『正直でいること』または『嘘をつかないこと』とが課せられていたのかとも思う。


どっかの熱血主人公だったら、こんな異様な少女を自分で考え、行動する、『不自由帳』に縛られないよう説教、行動して矯正?するだろうけど、西尾維新だし、そりゃない。この人の書く小説って、どんなに世間から異常だと罵られている人でも、それをありのままに受け入れるって人が多い気がするし。

物語の落とし所は、少女が眠るように死んで、柿本はそのまま家を出るとか、警察で別れてそれ以降、消息は知らないで閉じる、ちょっと跡見の悪いまま終わると思ったけど、新担当として大人になった少女が現れるなんてサプライズを展開。少女が編集という職業についているということは、自分の意思を持っているという証拠。主人公の柿本は何もせずとも、少女は救われたのか。少女に話を聞かせた柿本の影響なのか。
それはともかく、少女は不十分でなく、十分になったのかと思う。

まあ、最後の展開を読んで、G戦場ヘブンズドアを思い出したのは言うまでもない。


G戦場ヘヴンズドア 3 (IKKI COMICS)G戦場ヘヴンズドア 3 (IKKI COMICS)
日本橋 ヨヲコ

小学館 2003-09-30
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