2011/05/10

老ヴォールの惑星

まどマギのスレ見てたら、この作品を気に入った人はこんな作品がお勧め、と『老ヴォールの惑星』というSF小説があげられていたので読んでみた。

老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
小川 一水

早川書房 2005-08-09
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これは、数作品が掲載されている短篇集なんだけど、その中の一作に、高次元体(まどマギでいったらQべぇ)との接触があって、その話が面白かった。多分、話が何時まで経っても咬み合わない、平行線を辿るって点で、紹介した人はこの話を指してたんだと思う。

簡単なあらすじ。
人類が土星(だっけ)で、異星人が活動しているのを発見した。
さっそく、現地に行って交渉しようとするが、いざ付いてみると何かおかしい。
数ヶ月の船外活動の末、一人の男がこの活動はおかしいと気づく。
これは、自分の都合の良い夢を見続けるという機器(人類も同じような機器を開発し、実用していたがそれを遥かに凌駕していたテクノロジー)によって創りだされた仮想現実だった。
探検隊を仮想現実の中に送り、夢を見続けさせたのは、どういう行動をとるのか観察するためだった。
この観察者は、人類と同じような有機体であったが、発達しすぎて、異星人を観察するしかやることがなくなったのであった。
この機器のおかげで自分の都合の良い事象を体験することができるが、それは現実ではないと夢から目覚めたクルーは観察者に抗議するが、観察者はどうしてそんなことを言うのかわからない様子。
なぜなら、夢の中では誰もが自分の好きなように行動ができ、自分の願望が叶えられる。夢の中の自分はこれが夢だと認識せずに現実であると行動する。現実世界の身体は観察者が責任を持って処理をする。他のクルーは、夢だと認識せずに充実した毎日を送っている。これのどこが不都合だと言うのだね、と。

で、いろいろ押し問答がある。

今回のケースで、クルーが仮想現実と認識したのは、自分(A)の恋人(C)が他の人(B)の恋人にもなっており、その世界には恋人・Cが2人になっていたことからだった。仮想現実に入る前からBは、Aの恋人・Cに好意を抱いていたが、それはかなわなかった。しかし、仮想現実ではBの願望が叶えられるためにBにも恋人・Cができた。不都合がないように改変された世界で、AとB両方にCという恋人がいるが、どちらもCという人格からきた女性であって、どちらが本物か偽物か区別がつかない。

とまあ、こんなんで、自分の恋人が他の人と一緒にいるのが、たとえ自分から去っていった恋人ではなく、新たに複製された恋人・C’であっても気持ち悪いから、仮想現実は嫌だという主人公の主張。今風に言うのならば、NTR属性ではない、と。


SFチックな作品でよくあるパターンで、高次元体が提供する世界は、秩序を管理し、そこには自分の意思がない世界。秩序をつくろうとする側は、人間は愚かで学習しないから俺が管理してやると俺様理論を振りかざすが、対峙する側は、人間はそんなにヤワじゃないという主張で撃退ってのが王道。(例:フレッシュプリキュア等、他にもたくさんあったような気もするが思い出せない)
『老ヴォールの惑星』の一作品では、管理社会ではなく、自分の意思が存在し、尚且つ自分の望む方向に社会が進んでいくので、上のパターンとは違う。現実ではなく、夢であるが、夢だと認識しなければ、ずっと夢の中で生活することも可能。

一つの作品を作る場合は、この夢のような社会も「現実でなんとかしていく」という対峙する側の主張を突っ張って、仮想現実提供側(観察者)を退ける論拠が必要であるが、そこに自分の意思が存在するのなら現実と変わらぬ生活をおくれると思われる。

現実でなんとかしていくって、現実と変わらぬ生活が出来、尚且つそれを死ぬまで(自分が望むまでかな?)維持することができるのであれば、現実なんかより仮想現実で生きていきたいとは思う。この場合の仮想現実は五感にも作用するので、美味しい食事も、性的なことでも現実で行うのと寸分たがわず認識することができる。

思い通りにいかないから面白いという人生ベリーハードで日々を乗り越えていく勇者ならば、現実で挑んでいってもいいと思うが、それを思い描くのであれば、仮想現実内であっても、適度な試練は訪れるであろう。
この作品の恋人が違う誰かといるってのは、他人が存在するのであれば致し方ないことであって、この仮想現実に入って、有名人と付き合いたいと思うのであれば、その有名人は何人の恋人になって複製されるのか。他人の意思が存在する限り、一個人を縛ることはできない。
他人と共有するのが嫌ならば、一人一人の世界を提供すればいいだけであって、他の意思が入らないのであれば、恋人は一人のままであるし、寝取られる心配もない。


どうすれば、現実で生きていくという主張に説得力を持たせることができるのであろうかと時々考えるようになったが、未だに説得力のある答えは見つからない。
どう考えても、僕は仮想現実に行きたいらしい。

早く、二次元にいけるようにな~れ。